2011.05.21
器用貧乏と不器用裕福
器用貧乏という言葉を耳にする。「なまじ何でもこなせてしまう為にひとつに集中できず、結局何も身につかず大成しない人」のことを指す、言わばネガティブな言葉だ。確かにそう言われてみればそんな気もするが、かといって『不器用裕福』を「その通り!」と称賛するには少し難しい。
私の周りを見渡してみると、成功している方の多くは何かと器用だ。かなり幅広い分野で人並み以上の成果を出す人たちばかり。更に、スペシャリストの中でも一流と言われる人はあらゆる分野でマルチな才能を発揮するケースが多い。職人さんの世界でも多能工がもてはやされる現代においては、器用な人の方が大成に近いような気がする。不器用で愚直な一路タイプはダンディーでかっこいい存在だったが、現代では生きにくくなってしまったのかも知れない。
これは企業にも言えることだ。中小企業においては、「強みに集中しろ」という考え方は鉄則だが、そのほかの事を疎かにしろという意味ではないので要注意。飲食店なら味はもちろんのこと、接客や設備、清潔さなど、あらゆる要素を平均以上に保ったうえで、何か一つに秀でなさいということなのだ。
逆にたったひとつの劣った点が企業の命取りになるケースを何度も目にしてきたはずだ。少し前にさかのぼると雪印という押しも押されもせぬトップ企業が、賞味期限切れの牛乳を使いまわしていた事が発覚しあっけなくその幕を閉じてしまった。この場合、劣ると言うより倫理観の欠如ではあったが、あぐらをかいてはいけないという強烈な教訓になった。
経営は日々高度化している。顧客はあらゆるジャンルのサービスを体験し、どんどん成長していく。それに応じて企業に求めるサービスの質は深く広く拡がっていくのである。あれもこれもは決して出来ないけれど、幅広い視野、あらゆる角度で全体を捉え、自らのキャパシティを拡げなければいつか淘汰されてしまうだろう。
『器用裕福』とは言わないが、不器用では生き残れない時代であることは確かである。